Nature in Kamakura

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 平成15年2月、鎌倉中央公園で
鎌倉の自然について学ぶ講座が行われました。
そのお話の内容を、上・下2ページに分けてご紹介します。

鎌倉の自然環境 上

岩田晴夫さん(鎌倉市緑化推進専門委員)


【鎌倉の自然環境の概要】
 鎌倉の自然は、源氏山〜大仏ハイキング・コース〜鎌倉山ラインの北側と南側で対照的です。

 海に面した南向きの谷戸は、温暖で日当りが良いため、早くから宅地開発が進み、北側の日当りが悪く、湿気の多い谷戸の開発には、地形の大規模な改変が必要なため、急傾斜地を中心に開発されずに、緑地として残っています。


 鎌倉には小さな川が多く、水源から河口まで市内にあるのが特徴です。良好な水源環境が残されているので、河川改修の進んだ下流部でも、親水化等の工夫をすることによって、水系環境の向上が容易です。

 たとえば、御谷川では、親水化整備の効果によって、アユが鎌倉駅のホームの下の暗渠を通って遡上し、英勝寺の前にまで来るようになっています。


 農地の減少に伴い、ため池なども減っています。大船の散在ヶ池や、笛田の夫婦池などは、かつてのため池の名残です。


 現在の鎌倉の緑地は、市域の約40%です。1973年に行われた鎌倉の植生の調査時に比べ、2002年の調査では、ササが増え、ススキが減るなどの変化が見られました。海浜植物も貴重になってきています。

 鎌倉では、代償植生がほとんどです。人により植えられたり、人の手が入ったりすることで維持されてきた植物が多く見られます。コナラ、クヌギ、クロマツ、スギ、ヒノキなどです。



【谷戸環境と生態系】
 鎌倉の地形の特徴は、丘陵にひだのように刻まれた谷間、「谷戸(やと)」にあります。現在、鎌倉で人が住んでいる場所の多くは、谷戸の底の平地に当たり、緑地が残されているのは、尾根や斜面林の部分です。

 本来、谷戸では、斜面林を水源として、谷底の両側に流れがあるものですが、その流れまで含めた環境要素がすべて残されている谷戸は、減少しています。




 今、鎌倉では、約 220種の野鳥が見られます。日本国内で戦後に記録された野鳥は、約560種になります。


 見られる季節によって野鳥を分類すると…

・スズメのように一年中見られる「留鳥」。

・冬に暖かいところへ向かうウグイスのように、国内で移動をする「漂鳥」。

・ツバメのように繁殖するために、春に南から日本へ渡って来る「夏鳥」。

・カモやハクチョウのように日本で越冬するために、秋に北から渡って来る「冬鳥」。

・シギやチドリなどの「旅鳥」は、夏には一気に虫が増えるシベリアなどで繁殖し、冬は南へ渡り、その途中、春と秋に日本へ立ち寄ります。


 留鳥・漂鳥・夏鳥は、鎌倉で繁殖していますので、生粋の「鎌倉の野鳥」と言えるかもしれません。鎌倉は、留鳥がとても少なく、30種ほどしか見られません。夏鳥も少ないのが特徴です。

 鎌倉の野鳥の約50%は、冬鳥です。谷戸の構造を利用し、庭木の実などでえさをとっています。

 鎌倉の谷戸には、狭い中にも複雑な地形があり、野鳥はその環境を、うまく使い分けています。たとえば、谷戸の斜面をシジュウカラなどが、谷戸底をアオジなどが利用し、水場は皆で使う様子が見られます。




【増えている種・減っている種】
 近年、鎌倉のカラスは減ってきています。田んぼが減ったため、その環境にすむハシボソガラスが減少しています。昔から観察を続けていますが、カラスのねぐらは、高圧線の鉄塔に沿う位置で、何回か移動しているようです。ねぐらのそばには、水場が必要です。カラスは、採餌の際に体が汚れやすいので、必ず水浴びをしてから眠ります。

 鎌倉には巣を作れる大きなマツが激減し、現在、カラスは飽和状態にあります。カラスの飛ぶ速度は時速約40km、行動圏は50km以上。もし、カラスの被害を減らそうと殺しても、どんどん外から流入してくるでしょう。現在の平均産卵数は3〜4個ですが、5個産むこともできますから、一概に殺すだけでは数を減らすことに直結しないと考えられます。

 カラスは、海辺の魚や貝、ネズミやカエルなどの死体をきれいに片付けてくれる役割も果たしています。幅広い視点から、野生生物との共存のあり方を考えてみましょう。



 4つ足動物について見てみると、30〜40年前に、畑などが減り、キツネがいなくなりました。今いるのはタヌキやイタチのほか、外来種のハクビシン、アライグマなどです。
 また、ごく普通に林にいるのは、アカネズミ、カヤネズミ、茶色いハツカネズミ、クマネズミ、ドブネズミ、ごく少数のハタネズミ(死体・非公式記録)などです。一番多いのは、タイワンリスです。


 鎌倉は、県内で有数のコウモリの多いところです。昔は、万単位でいたようです。やぐらなどの洞窟があるためでしょう。今確認できるのは、アブラコウモリのみです。

 鎌倉のモグラは、2種類います。手の力が弱いヒミズモグラと、土の中をどんどん掘るアズマモグラです。200uに1匹といった割合で見られます。アズマモグラは、尾根の畑など乾燥した草地にたくさんおり、ヒミズモグラは、腐葉土の下にいます。



 鎌倉の鳥のほとんどは、カラスやスズメも含め、数が減っています。

 一方、カワセミは、一時鎌倉から絶滅したと思われましたが、今では増えてきています。昔は新鮮な、清流にすむ魚しか食べなかったのですが、次第に土手だけでなく、川から離れた森の急斜面に巣を作ったり、ウシガエルのオタマジャクシなども食べたりするようになって、今では鎌倉市内のあちこちにいます。鶴岡八幡宮の源平池でも見られます。


 キセキレイとセグロセキレイは、鎌倉ではほとんど見られなくなりました。ハクセキレイは、20年ほど前から、北方から南下したと思われる亜種が定着しています。冬、鎌倉駅の東口辺りで、夕暮れ時に塒(ねぐら)入りするのがたくさん見られます。


 
ヒタキというきれいな鳥がいます。火打石を打つような、カッカッという声で鳴きます。
 かつては鎌倉、特に源氏山は、ヒタキのメッカでした。ちょっと歩けば、あちこちに20羽くらいの群れがいましたが、今はほとんどいません。
 木の枝が茂りすぎ、虫を取ったりするのに不向きになったのでしょう。空中でパッとえさをとって戻る習性がありますが、それができる空間が減ってしまいました。



 アオゲラは、20年前にはほとんどいませんでした。かつては源氏山の冬鳥でしたが、今は年中、市内のどこでも見られます。コゲラも、同じような状況です。
 今はたくさんいる鎌倉広町緑地にも、20年ほど前にはいませんでした。林はよく手入れがされて全体にスカスカした印象でしたが、今は茂りすぎて弱った木が増え、円海山や逗子の池子方面から鎌倉に来たようです。

 コゲラは枯れ木に巣を作る鳥で、直径5cmの幹があれば、巣を作ることができます。一方、アオゲラは、生きている木に巣を作り、木を枯らしてしまうこともあります。これらキツツキ類が増えているのは、鎌倉の木が弱ってエサとなる虫が増えるなどしている証拠です。もし、丹沢の方にいるアカゲラも来るようになると、さらに鎌倉の木の健康状態が危ぶまれます。


 ツバメは、次第に田んぼが少なくなり、粘性のある泥(粘土)を巣材に使うことができずに、巣が落ちてしまうことが増えてきました。スズメに巣を取られてしまうこともあります。

 かつて鎌倉では、ツバメより一回り大きいコシアカツバメが多く見られ、北限地とされていましたが、今はほとんどいません。コシアカツバメは、とっくり型の巣を作ります。鎌倉消防署などでも見られます。このほか、アマツバメ類のハリオアマツバメ、アマツバメ、ヒメアマツバメなども鎌倉で見られます。


 サギは、かつて遊水地のそばの竹林にコロニーを作っていました。一時、鎌倉に繁殖地がなくなったこともありますが、1998年ごろから源平池に戻ってきました。柏尾川の河川改修が進み、親水護岸などでサギにもすみやすくなり、横浜の方から移ってきた可能性があります。ただし、サギが増えすぎると、フンなどで池の水が汚れるおそれもあります。


 タカの仲間も、鎌倉で見られます。サシバというタカは鎌倉でたくさん見られ、秋に1000羽ほど、南へ渡っていくのが見られます。
 サシバという名の由来は、昔、タカ狩りに使うタカが、地面に降りる際などに尾羽を痛めると方向転換しにくくなるため、どこでも普通にみられたサシバを捕まえ、尾羽をとってタカ狩り用のタカの尾に差したためといわれています。

 オオタカは、鎌倉のどの地域でも見ることができます。オオタカが生きるためには、そのえさとなるハトやカラスなどがたくさんいる環境が必要です。


 鎌倉には、フクロウがたくさんいます。ネズミ類やタイワンリスなどをえさとしており、現在、過飽和状態です。
 フクロウもアライグマも樹洞に巣を作るため競合し、巣に適した環境は減ってきているので、今後、アライグマによるフクロウの繁殖への影響が心配されます。


 は虫類では、増えているものはほとんどいません。カメは、アカウミガメも含め減っています。アカウミガメの卵が見つかると、保護のため、掘り上げて江ノ島水族館へもっていきます。そのため、成長すると藤沢のカメとなって帰ってくることになります。

 外来種のミシシッピーアカミミガメは、最近増えています。縁日などで買った小亀(銭亀)が成長して飼いきれなくなり、誰かが放したもののようです。

 クサガメは、昔は関西にしかいませんでしたが、今は鶴岡八幡宮の源平池や、円覚寺前の白鷺池で見られます。



 鎌倉で減っていないは虫類の1つは、ヤモリです。北鎌倉、鎌倉地域に、特に多くいます。サンショウウオや、イモリはいません。かまくら石でできた石垣が減り、そのすき間などにすんでいたトカゲやカナヘビは減ってしまいました。

 両生類も、激減しています。池や湿地が減り、産卵場所がなくなったためです。

 アカガエル類が生きていくには、広大な緑地が必要です。
 湿地の乾燥化が進んできているため、浅い水たまりを掘るなどして産卵できる環境を作る活動を、ボランティアで進めています。



 水田が減り、シオカラトンボなど、水たまりに卵を産むトンボは減りました。また、水路などの流水にいるカワトンボ、ため池にいるイトトンボなども減っています。



 ウメノキゴケは、意外に多く見られます。きれいな空気の指標生物ともなっている地衣類です。
 葛原岡のウメノキゴケが、増えすぎてクヌギの大木を枯らしてしまったこともあります。温暖化で、夜間の湿度が増えたことも影響しているのかもしれません。



 魚については、あまり記録が多くありません。

 アブラハヤ、ヨシノボリ、ホトケドジョウなどが見られます。ホトケドジョウは、鎌倉市内ではごく普通に見られます。水源近くの、水がある程度湧いている場所を好みます。

 アユは、相模川で大量に放されたものの一部が上ってきているようです。

 このほか、ヌマチチブやウナギなどが見られます。また、ウキゴリというハゼの仲間が、神戸川で増えてきています。

 鎌倉のメダカは、すでに野生の状態では絶滅してしまいました。個人の庭で育てられていたものが後で見つかり、これを鎌倉市役所前の池などで保護増殖しています。



聞き書き:鎌倉の自然を学ぶ講座 (平成15年2月実施)より 〜下に続く


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