Nature in Kamakura

HOME > 行ってみよう! > 朝夷奈切通


朝夷奈切通


 鎌倉は三方を山に囲まれているため、
中世の人々がほかの場所と行き来するには、
山坂を越えなければなりませんでした。
そこで、山の稜線を掘り下げた交通路「切通(きりどおし)」
が開かれました。切通しは交通路であるとともに、
鎌倉を守る重要な防御施設となっていました。
朝夷奈切通(あさひなきりどおし)は、
鎌倉の主要な切通「鎌倉七口」の1つです。

地図
 

十二所神社の画像 【十二所神社】
 まずは鎌倉駅からバスに乗り、十二所神社バス停を降ります。正面の山すそに、ひっそりとたたずむ十二所神社が見えます。十二所かいわいの鎮守さまで、天神七柱(あまつかみななはしら)、地神五柱(くにつかみいつはしら)の計12柱をまつります。もとは熊野十二所権現社と呼ばれ、十二所の地名もここから来たとされています。弘安元年(1278)、光触寺の境内に創建された神社ですが、天保9年(1838)に今の土地を寄付する人があり、現在の地に移りました。
 鳥居の横に、百貫石といわれる石があります。実際には28貫(112kg)で、昔はお祭りのときにこれを持ち上げたりかついだりして自慢した人もいたそうです。山すそには山ノ神、ほうそう神社、宇佐八幡社が並んでいます。土の広間には、地主神をまつるほこらがあります。
 十二所の辺りでは、戦後、ガスや電気が普及するころまで、盛んに炭が焼かれていたといいます。その名残と思われるヤマザクラやコナラの雑木林も、尾根の上などに残っています。

 

鑪ヶ谷の画像 【たたらがやつ】
 新金沢街道に戻りましょう。この辺りは、「たたらがやつ」と呼ばれています。たたらとは、日本古来の製鉄法のこと。ふいごで風を送りながら木炭を燃やして高温にした炉に砂鉄を入れ、鋼の塊を作り出す製鉄法です。かつてこの辺りで、山から切り出した木による木炭や渓流の水、稲村ガ崎の砂鉄などを使って鉄がつくられていたのかもしれません。

 

切通し庚申塚の画像 【切通庚申塚】
 新金沢街道の信号を渡り、北東へ向かうわき道へ入りましょう。左手にある小高い丘には、庚申塔や馬頭観音などの石塔が立っています。丘の上に残されている平地の部分は、新道がつくられる以前の地面 の高さにあたり、十二所神社の裏山までつながっていたといわれます。

 

朝夷奈の小滝の画像 【梶原太刀洗の水・朝夷奈の小滝】
 滑川の源流・太刀洗川に沿って進みましょう。川の北側の岩壁に掘られた祠から竹筒を通ってしたたる清水は、鎌倉五名水の一つ、梶原太刀洗の水。上総介広常に謀反の疑いがあるとして、頼朝に命を受けた梶原景時が広常を討ち、血に染まった刀を洗ったところからこの名がついたといいます。 後に、殺された広常のよろいから頼朝の武運を祈る願文が見つかったことから、頼朝は殺害を深く悔いたといわれます。
 さらに進むと、小さな滝の前に出ます。落差5メートルほどですが、鎌倉ではこうした滝が見られる場所は少なく、貴重なところです。この辺りの渓流では、サワガニのほか、海から川をさかのぼってきたモクズガニ、ヨシノボリなども確認されています。

 

朝比奈切通しの画像 【朝夷奈切通】
 小滝のそばに、朝夷奈切通を示す石碑があり、ここから上り坂が始まります。朝夷奈切通は、仁治元年(1240)、北条泰時が執権だったときに開かれたもの。鎌倉幕府の初代侍所別当だった和田義盛の子・朝比奈三郎義秀が、一夜で切り開いたという伝説の地。このことから、滝は三郎滝とも呼ばれています。国の史跡として保護されています。今は別に新道が開かれ、車が往来していますが、かつては鎌倉と金沢・六浦を結ぶ主要な道でした。東京湾に注ぐ河川の航路とつながる六浦への道は、東国の物資を鎌倉へ運ぶ重要な役割をもち、近年まで、金沢の塩を商人がかつぎ、鎌倉に売りに来る際に使われた塩の道でもありました。

 

朝比奈峠の画像 【朝夷奈峠】
 岩盤の上の道は森からしみ出た「しぼり水」でいつも湿っており、滑りやすくなっています。足元に気をつけて、急坂を上っていきましょう。上り詰めたところが、朝夷奈峠です。道の両側に垂直の岸壁がそそり立ち、険しい切通しの、往時の姿をしのぶことができます。鎌倉市と横浜市との境界になっています。

 

熊野神社の画像 【熊野神社】
 朝夷奈峠を越え、ひっそり静まり返った杉木立を抜けると、鳥居と石段が見えてきます。朝比奈の鎮守、熊野神社です。朝夷奈切通を開発する際の守護神として、頼朝が熊野三社大明神を勧進した社とされています。ここでお参りし、一休みしましょう。
 この辺りの山奥はひっそりとして、心寂しくなるほどです。自然への畏敬の念を抱きつつ暮らしていた昔の人々の思いに、いつのまにか共感を覚えている…そうした、森の存在感があります。

 

十二所果樹園の画像 【十二所果樹園】
 小滝の前まで引き返し、南側に向かう山道を登ります。この辺りにはかつて、かまくら石を切り出して暮らしていた人々がいました。粟石(凝灰岩)が多いため、それを伐り出して建築用材や河川、土木工事、台所の流しなどに使いました。今もその名残を思わせる、石材業が営まれています。
 急な土の道を上っていきましょう。9月には、山すその斜面に、薄紫色のタマアジサイの花も咲きます。
 坂を登り切ったところに、十二所果樹園があります。開園期は、門の横側の小さな入口の鍵が開いており、ここから中に入ることができます。十二所果樹園は総面積50,350u。横浜市から鎌倉市を経て三浦市までつながる、三浦丘陵緑地帯の一角をなしています。自然の土地を行き来する野生生物にとって、市境を越えてつながるこの緑地帯は、貴重な緑の回廊です。平成18年、鎌倉風致保存会が緑地保存のため、この果樹園を買収しました。現在、園内にはウメとクリの木がそれぞれ約600本植えられ、ボランティアの手でせん定、下草刈りなどが行われています。自然の恵みを実感できる、鎌倉で一番大きな梅園です。
 (開園は7/1〜8/20・10/21〜5/10のみ。管理は鎌倉風致保存会)

 果樹園まで行ったら、同じ道を引き返し、十二所神社バス停に戻りましょう。朝夷奈切通周辺の山道を歩くと、不思議とどこかすがすがしく、心洗われる気持ちになる気がします。凛とした森のたたずまいに触れることで、人間も、自然の一員として生かされている生き物の一員にすぎない…といった謙虚な気持ちに、立ち戻ることができるためでしょうか。皆さんも、ときには静かな自然の中に身を置くひとときを持ってみませんか。忘れかけていた、大切な「何か」を思い出すことができるかもしれません。

 

【交 通】鎌倉駅よりバス→十二所神社前バス停下車
【行 程】十二所神社前バス停(徒歩15分)→梶原太刀洗の水(徒歩5分)→朝夷奈の小滝(徒歩15分)→朝夷奈峠(徒歩20分)→熊野神社(引き返し徒歩20分)→朝夷奈の小滝(徒歩20分)→十二所神社前バス停(徒歩10分) 【トイレ】鎌倉駅より先、山道には無し

 

※主な引用文献…
浄明寺太郎,『鎌倉なんでもガイド』金園社
鎌倉風致保存会ホームぺージ
鎌倉市教育委員会,1971.『としよりのはなし』
鎌倉市教育研究所編,2000.『かまくら子ども風土記』.鎌倉市教育委員会



back

HOME
自然の中へ
行ってみよう!
やってみよう!
参加しよう!
Q&A
聞き書き
レポート
海の幸・山の幸
鎌倉/自然の本
地図
PROFILE
講座
LINK
Copy Right Nature in Kamakura
Since 2007
inserted by FC2 system