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すてきな谷戸に行ってみよう
「鎌倉の緑」として皆さんがまず思い浮かべるのは、まちの3方を囲む山並みではないでしょうか。山肌に、ひだのように刻まれた谷を「谷戸(やと)」といい、鎌倉の代表的な地形です。森に降った雨は土にしみ込み、やがて低い方へと流れていきます。人々は昔から、谷戸あいからしみ出た「しぼり水」を使って田畑を耕してきました。
鎌倉中央公園には、今も田畑や雑木林などが残り、気軽に散策を楽しめます。
野原を跳ねるバッタたち、ため池の上をスイスイ飛ぶトンボ。カエルやヘビなどの小動物を食べるモズや、サシバというタカの仲間などの猛禽類も、こうした谷戸の地形を利用しています。多様な環境がちりばめられた谷戸では、実にさまざまな生き物たちと出会うことができます。
谷戸の地形は、鎌倉の特徴です。
谷戸がはぐくむカエルやトンボ
谷戸の田んぼでは、春になると、ケロケロ、カカカ、とカエルの合唱が響きます。普段は近くの林で暮らしているカエルたちが、「そろそろ田んぼに水が入るぞ」と、やってくるのです。
シュレーゲルアオガエルは、ちょうど田んぼに水を入れるころ、あぜの土に卵を産みます。フワフワのマシュマロのような泡から、オタマジャクシが生まれるとするりと落ちて、水に入っていきます。
年中湿った田んぼには、シオカラトンボのヤゴが多く、冬に水を抜いた田んぼでは、アキアカネなどの赤トンボ類が多く見られます。実に繊細な環境の違いに応じてすみ分けていて、感心してしまうほど。
春、土のあぜを塗り直し、田んぼに水を引き入れる人がいること…何百年も、当たり前のように繰り返されてきた人の営みが、多くの生き物たちの命を支えています。
ヤナの植物
かつて、山すその斜面は「ヤナ」と呼ばれ、谷底の田んぼによく日が当たるようにと、しょっちゅう草木が刈られていました。
定期的に草刈りがされることで日差しが差し込み、ヤナには明るい場所を好む植物が生えます。
春には真っ赤なクサボケの花、初夏には、しっとりと香るヤマユリの花。秋になればワレモコウも咲きます。ヤナには、森の手入れによりはぐくまれてきた、かわいらしい野草たちが花開きます。
生き物たちでにぎわう谷戸の水辺
近年、谷底の水辺までまるごと残る谷戸は減ってきており、山の手入れをする人も減りつつあります。そうした中、たくさんの方々のご努力により、貴重な谷戸の自然が、大切に守られているところもあります。
近年、鎌倉広町緑地や台峯緑地なども、相次いで保全されました。
それぞれの地に受け継がれてきた生き物たちの遺伝子は、その地でしか守れない宝物。地球の生物多様性をも支える、財産です。これからも、ホタルが舞い、カエルの合唱が響くすてきな谷戸が、皆さんの笑顔と共にはぐくまれていきますように。