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昔はどこにでもあった田んぼや土の水路は近年少なくなり、
鎌倉の野生のメダカは、すでに絶滅してしまいました。
佐助在住の箕輪さんが、保護してきたメダカは
「鎌倉メダカ」として、今も鎌倉市役所前のビオトープなどで
大切に守られています。
鎌倉メダカを守る
箕輪信和さん(佐助在住)
大正元年から、お稲荷さん(佐助稲荷神社)の近くのこの地に住んでいます。そのころは、辺りに田んぼが広がり、家はまばらでした。田んぼには野生のメダカやゲンゴロウ、そして佐助川にはウナギやホタルがたくさんいました。
やがて田んぼは埋め立てられて畑になり、最後には、田んぼはお稲荷さんの前と、弁天さん(銭洗弁財天)の前だけになりました。この2カ所の田んぼの中に、メダカがいました。普段は田んぼの中にいて、田んぼの水が干上がる冬には、水路に逃げていました。
やがて埋め立てが進み、佐助で最後に残っていた2つの田んぼもなくなるなど、鎌倉から野生のメダカは姿を消していきました。
昭和38年ごろ、自宅の池で飼っていた金魚の代わりにと近所の田んぼから連れてきたメダカが、池を壊す際に生き残っていたのを発見しました。それをスイレン鉢やかめに移して今日まで育ててきたものが今では「鎌倉メダカ」と呼ばれています。
自然の中で生き続けていたメダカは自然の状態で飼うのが良いと、スズムシや小鳥を飼っていた経験から思いました。
ここのメダカは、おじいさんの代からあった大きな焼き物のスイレン鉢などで飼っています。冬に凍ってしまわないよう、土の中に半分埋めています。土の中は温かいですから。
2月には、アカガエルが瓶に卵を産み、瓶が卵でいっぱいになります。オタマジャクシが生まれると水を捨てられなくなるので、ちょっと大変ですが…。
メダカだけでなく、私たちは周りの山も、鳥も、植物も、すべての自然を、同じように大事に手をかけて育てています。
こういうことを1つ1つ、自然の身になって考えてきたから、これまでメダカが残ってきてくれたのかもしれません。
生き物を慈しみながら育てるという気持ちは、昔から続いてきた生活の中で、自然に備わってきたような気がします。
昔から、メダカの見た感じやすばしこさなどは変わっていません。大雨や台風、鳥、ネコ、人が近づくとき、賢いメダカはサーッと鉢の底に沈み、敵が去るまでじっと身を隠しています。
温かい日、メダカは水面に上がってきてよくえさを食べます。冬は、あまり食べません。それに合わせて、えさの量も調節します。
5〜6月、水温が25℃を超えると、卵を産みます。当初は卵や稚魚を親と分けていましたが、それでも強いものが生き残ります。弱いものは親や仲間、外敵から食べられるという厳しい自然界のおきても、メダカから教わりました。
私たちができることは、自然のえさだけでは不足なので、ときどき市販の金魚のえさをあげること、水が濁りすぎたら1日くみ置きカルキが抜けた水道水と換えること、農薬がまかれるときには鉢にふたをして、メダカを襲うトンボのヤゴを取り除くことくらいです。
手を入れすぎるのも、まったく手を入れないのもだめで、自然の状態を見ながら、必要なときに、ちょうどいい具合になるように世話をしています。常に目は向けるけれど、余計な手は加えない。それが野生のメダカに一番優しい接し方だと思っています。
こうして、メダカが泳いでいるのを見るのはいいですね。私たちのお店(くずきりみのわ)に来たお客さんの女の子も、ずっと見ていることがあります。メダカを見に来た、というお客さんもいます。オタマジャクシを見に来た、とか、そろそろ足が出てきたころかと思って来た、という人もいます。
自然からお預かりしている宝物「鎌倉メダカ」を、いつの日か安心してすめる自然に帰してあげたい。課題は山積みですが、それが私たちの夢です。
【周囲の自然】
ここ(佐助)の山には、2月ごろになるとフクロウが来て、よく鳴きます。山の様子は、昔も今と同じ感じです。シイ、ツバキ、アオキが茂る林でした。鎌倉は、都市に近いところでまとまった緑地が残っている、貴重な場所なのだそうです。
この山のすぐ裏側は、マキにする木をとっていたため、コナラやヤマザクラ、クヌギ、クリなどが生える明るい雑木林でした。今よりもヤマユリ、ノブキがいっぱい出て、ヤマツツジもたくさんあり、何ともいえない色合いの花が咲きました。
「山の木を切ってはいけない」と「古都保存法」で決められてから、開発が進むおそれが減ったものの、山の木がやたらに大きくなりました。
ここのような垂直の崖では、木の重みで崖崩れが起きそうで心配です。昔のように、適当に切って使っていれば良かったのですが、今ではマキを使わなくなってしまったこともあり、昔のように木を切る必要もありません。
山が、変な形になってしまったと感じます。昔、水道(みずみち)があったのに、水が流れてこなくなった、というところもあります。たとえば、この庭の崖の岩盤のところには、後ろの方に、鎌倉時代の井戸があります。水がしみ出し、イワタバコもあったのに、最近、水の道がなくなったのか、水が流れてこなくなりました。
この辺りでも、昔はヘイケボタルが見られました。子どもが小さいとき、よくおんぶして見に行ったものです。
今は、ゲンジボタルです。一度見られなくなりましたが、鎌倉自主探鳥会グループのボランティアの皆さんが「エコアップ」作業で自然な状態の水路や湿地をつくり、また見られるようになりました。本当に幻想的で、大切にしたい景色です。