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和賀江島〜稲村ガ崎
砂浜や岩礁が入り混じった鎌倉の海では、
変化に富んだ浜辺歩きが楽しめます。
特に潮の満ち干が大きくなる春〜夏の大潮の日、
引き潮の時刻に間に合うように、
和賀江島へ磯遊びに出かけてみましょう。
【和賀江島】
鎌倉駅からバスに乗り、飯島バス停へ。歩くとすぐに、浜辺に到着します。大潮の日の干潮の時刻になると、海の上に、丸石が累々と積み重なった和賀江島が姿を現します。かつてこの辺りは遠浅の砂浜で波が高く、船の難破も多かったことから、鎌倉幕府の第三代執権・北条泰時が、港を築かせました。和賀江島は、現存する日本最古の鎌倉時代の築港跡で、国の史跡に指定されています。足元をよく見てみると、かつての交易品とも思われる青磁や古い馬の歯など、歴史の香り漂う「お宝」が見つかるかもしれません。そのほか、浜辺では中国語が書かれた浮きやアカウミガメの骨などが見つかることもあるそう。海は私たちに、広い世界とのつながりを感じさせてくれます。
和賀江島の直径30cmほどの石と石のすき間は、今では生き物たちの格好のすみかとなっています。濡れても良い靴を履いて、生き物たちを観察してみましょう。足元をサッと通り過ぎる小魚の群れや、驚いてコロリと石から転がり落ちるヤドカリの姿。しゃがんで水面をじっと見ていると、海草をせっせとハサミで口に運ぶカニたちの暮らしぶりも見えてきます。運が良ければ、クサフグやアオウミウシ、タコ、イカなどに出会えるかもしれません。さまざまな生き物たちが暮らす変化に富んだ磯は、命のきらめきに満ちています。
【材木座海岸】
磯遊びをたっぷり堪能したら、材木座海岸を西へと向かい、浜辺を散策してみましょう。材木座は、昔、材木などを運ぶ船の寄港地としてにぎわったところです。今は、この辺りに漁港はなく、漁師さんは砂浜に枕木のように板を並べ、その上に船を滑らせて、海に下ろしていらっしゃいます。こうして海に入った船で、ワカメやシラス、鎌倉エビとも呼ばれるイセエビなどが水揚げされます。機会があればぜひ、とびきり新鮮な海の幸を食べてみてください。
海辺で漁の様子を眺めていると、普段何気なく食べている1匹1匹の魚が、自然の中ではぐくまれてきた生き物であることに、改めて気づきます。自分が食べるかもしれない魚が泳いでいると考えると、「海にごみを捨てないで」というマナーも、他人事ではなく、ちょっと真剣に捉えられる気がしませんか? ついでにごみ拾いでもしながら、散策を続けましょうか。
【由比ガ浜】
滑川より西に進むと、由比ガ浜に入ります。かつては毎年5月になると、1匹のカツオが付近の浜に跳ね上がり、これを見つけた人が、鶴岡八幡宮へ奉納していたといいます。奉納した人や親族がお下がりの半身をいただく一連の儀式が終わって初めて、江戸への流通も許されました。鎌倉のカツオは最上品とされ、「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」とうたわれる風物詩でもありました。しかし近年、回遊径路が変わったのか浜にカツオが跳ね上がることも無くなり、奉納も昭和16年ごろを最後に途絶えたということです。
波打ち際をよく見ると、モゾモゾと動く小さな二枚貝、フジノハナガイが見つかることがあります。波が来ると一斉に砂の上に現れ、次の波に乗って、サーフィンのように移動します。これは潮の満ち干によって移動する波打ち際に、常にいられるようにするための習性といわれています。紫や桃色などの貝殻が浜辺に散らばっていることもあり、まるで色とりどりのチョウが舞っているかのよう。
浜辺には、透き通るような桜色の桜貝が落ちていることもあります。“麗(うるわ)しき 桜貝一つ 去り行ける 君にささげん…”という「さくら貝の歌」も、由比ガ浜で拾われたサクラガイから生まれました。「桜貝」とよくいわれているのは、サクラガイ、モモノハナガイ、オオモモノハナガイ、カバザクラの総称。いずれも透き通るように薄い桃色の貝殻をもっており、形や大きさが少しずつ違います。鎌倉や逗子の遠浅な砂泥の浜辺は、こうした桜貝がすむことのできる、県内でも数少ない場所といわれています。〔池田(2002)〕
相模湾は、生物がすむためのさまざまな条件がそろっており、「生物の宝庫」として世界的に知られているところです。岩礁、砂浜、干潟など変化に富む海岸線をもち、沖合いには、水深1000m級の海底もあります。また、南から流れ込む暖流と北からの寒流、その両方の影響を受けています。こうした変化に富んだ環境に、さまざまな生き物が適応し、暮らしているのです。これまでに、相模湾で確認されてきた貝類は1100種以上。しかし、特に1960年以降に進んだ開発などの影響で、相模湾の生物にも影響が出てきているという気がかりな報告があります。2001年に葉山しおさい博物館により発行された『相模湾レッドデータ〜貝類〜』を見ると、111種の相模湾の貝類について、消滅したり減少したりしているという報告がなされています。〔池田ほか(2001);池田(1990)〕
【稲村ガ崎】
砂浜が尽きたところから国道134号の歩道に上がり、稲村ガ崎へ向かいます。海に突き出すテトラポッドの先では、よくカモメたちが羽を休めています。魚などをとるために、三浦半島先端の城ガ島をねぐらとするウミウも飛来してくるといわれています。水が澄んでいるときには、海の底に岩礁が見え、そばに魚が泳ぐ姿も確認できます。こうした海の中の岩場は「根」といわれ、「どの根にはアジがつく」という具合に、昔から漁の目印ともなってきました。
稲村ガ崎に到着したら、公園の芝生で一休み。お弁当を広げる際は、トビに食べ物を狙われないように気をつけて!餌付けなどにより、トビが人間の食べ物の味を覚えてしまったのです。野生生物と人間のより良い関係を築くためにも、えさをあげないでくださいね。無事に食べ終わったら、帰途へつきましょう。江ノ電の稲村ケ崎駅までは、歩いて5分ほどです。
波の輝きとすてきな生き物たち、おいしい海の幸にもふれることのできる浜辺歩き。楽しい反面、人が自然に与えている影響について、考えさせられることもたくさんあります。日々の暮らしの中で、できることから見直していくことで、将来世代の子どもたちに引き継ぐ自然が、ほんの少し豊かなものになるかもしれません。
【交 通】鎌倉駅よりバス(小坪経由新逗子行き)→飯島バス停
【行 程】飯島バス停→和賀江島→由比ガ浜→稲村ガ崎→稲村ケ崎駅(約3時間)
【トイレ】鎌倉駅、飯島駐車場そば、材木座海岸、由比ガ浜、稲村ガ崎にあり
※引用文献…
池田等,1990.『逗子・葉山 海辺のウオッチング』.関東学院逗葉六葉会
池田等・倉持卓司・渡辺政美,2001.『相模湾レッドデータ〜貝類〜』.葉山し
おさい博物館
池田等,2002.鎌倉のサクラガイ.コラム自然はたからもの(20)広報かまくら.
鎌倉市
鎌倉市教育委員会,1971.『としよりのはなし』
鎌倉市教育研究所編,2000.『かまくら子ども風土記』.鎌倉市教育委員会