Nature in Kamakura

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広町の四季だより


 生きものたちの息吹に満ちた谷戸は、
いつ訪れても、たくさんの驚きや発見があります。
広町の四季の生きものたちの様子を、ご紹介します。

森の入口の画像
 
春〜カエルの合唱が響く萌黄色の山

ヤマザクラの画像  春の谷戸には、いったいいくつの色があるのでしょう。萌黄色、緑、深緑、白、桜色…。ヤマザクラの花も1株ごとに微妙に色が異なり、斜面は実に繊細に染め分けられています。広町の自然の多様さを、実感する季節です。
 つややかに響く、ウグイスのさえずり。繁殖期には巣の辺りのなわばりでさえずるため、春にさえずる位置を確認しながら歩くと、大体の巣の数と位置が分かるといいます。1つの谷戸に1つがいのウグイスが巣をかけることが多く、地形を上手に利用している様子に感心してしまいます。

シュレーゲルアオガエルの画像  「早く田んぼに水を入れて」と誘うように、カカカカッ、とカエルの合唱も聞こえてきます。シュレーゲルアオガエルは、畦の土の中に、マシュマロのような白い泡に包まれた卵を産みます。卵からオタマジャクシがかえるとスルリと水に入り、泳ぎ出します。長い間、受け継がれてきた田畑の耕作のサイクルに、適応した生き物です。

 谷戸あいにある鎌倉の田んぼは、面積が狭く、機械が入りにくいこともあり、冬の間も水が溜まったままの「湿田」が多くあります。早春に卵を産むアカガエルやヒキガエルは、冬の間に水が抜かれる「乾田」では卵を産むことができませんが、産卵期にも水のある湿田では、子孫を残すことができるのです。

 しかし湿田だった場所も、耕作されなくなると、だんだん乾燥していきます。毎年、谷戸の「しぼり水」を引き込んできた人の営みが途絶えれば、田んぼに適応した生き物たちも、ひっそりと息絶えてしまうかもしれません。 こうした中、御所谷では田んぼの復元が進んできました。市民と行政が手を携え、野生の生き物を守るために田んぼを復元することは、国内でも先進的な取り組みといえるでしょう。ボランティアの皆さんが、まぶしく見えます。

木登りの画像  谷戸の生き物に触れ、目をキラキラさせて遊ぶ子どもたちの姿も。私も子どものころ、泥んこになって遊んだことを思い出します。楽しい思い出をたくさんくれた自然に、大きくなったら恩返しをしよう、と感じたあのときの気持ちが、今の私を支えています。次の世代の子どもたちにも、命の賛歌あふれるすてきな谷戸を手渡すことができたら、と、心から願っています。 

 
夏〜水辺がはぐくむホタルやトンボ

 青い空に、ぐんぐんと伸びる入道雲。ニイニイゼミの声に迎えられて森の小道を歩くと、森の精気が体いっぱいに満ちてきます。葉を涼やかな白い色に染めて目を楽しませてくれたハンゲショウも、そろそろ終わり。湿地にはアシが背丈より高く茂り、谷戸全体が、うっそうとした緑に包まれます。

チダケサシの画像  7月上旬、道沿いの斜面で、チダケサシを見つけました。ともし火のような形をした、淡い桃色の花です。すっと伸びた茎の先に小さな花が集まり、繊細な印象。昔、茎に「乳茸」というキノコを刺して持ち帰ったことから、この名がついたといわれます。光の差し込む湿った草地などに生える、里山の草です。ボランティアの皆さんが草刈りをしてくださる場所で、近年、次第に多く見られるようになりました。これからどんな花が咲くだろうと、楽しみなところです。

 地元の方のご好意により、市民の皆さんが耕作している田んぼでは、トンボがスイスイ。草取りをしていた男の子が、「ヤゴの抜け殻が55個もあったよ!」と教えてくれました。10uほどの1枚の田んぼで見つけた数です。小さな田んぼも、無数の生命をはぐくんでいるんですね。一年中湿った田んぼではシオカラトンボのヤゴが多く、冬の間、水を抜いていた田んぼでは、アキアカネなど赤トンボの仲間が多く見られます。一方、流れのある水路には、オニヤンマのヤゴが潜んでいます。生き物たちは、実に繊細な水の量や流れ方の違いに応じてすみわけているんだなあ、と感心するとともに、いろいろな環境があることの大切さを、実感させられます。

ゲンジボタルの画像  夜のとばりが降りると、ホタルの光。6月中旬には、フワーッと幻想的な光を振りまいてゲンジボタルが飛び交っていましたが、7月に入るとヘイケボタルが、セリなどの上でチカチカと光ります。水路の草を刈ると明るくなった水底にケイソウ類が増え、それをカワニナが食べることから、カワニナをえさとするホタルの幼虫もすみやすくなるようだ、と教えていただき、昼間カマを振る手にも力が入ります。刈っても刈っても生えてくる草木の生命力に驚かされながら、生き物たちと過ごす夏。陽の光をいっぱいに浴びてたくましく成長するその姿に、元気をもらえそうです。

 

秋〜虫の音響く実りの季節

オギの画像  どこまでも高く澄む秋の空。涼やかな風に誘われて、森の入口から谷戸の中に入ると、一面にオギの銀の穂がたなびいています。
 オギは、乾燥化の進んできた湿地などに多く生える植物です。ススキにそっくりですが、株立ちにならないのが特徴。まだ湿地が残っているところでは、ほろほろと頭を垂れるアシの穂も健在です。

ヨメナとイヌタデの画像  明るく開けた草地では、里山の可憐な野草が花開きます。湿地にはミゾソバ、草地にはヨメナ、道端にはホトトギスの花。そしてミゾソバやシロバナサクラタデを守ろうと草刈りをする方、乾燥化の現状について研究をする方や田んぼの復元に取り組む方、道端1本1本の草花の安否を確かめ調査する方々…。秋の湿地や道端で咲く花々には、大勢の皆さんのあたたかな思いが注がれています。

 道端の草がむすんだ実は、野鳥の大切なえさとなり、これを求めてアオジやカシラダカの群れがやってきます。ふと見ると、木の枝にバッタが刺さっていて驚くことも。山から下りてきたモズの「はやにえ」です。キチキチとモズの高鳴きが響くたびに、今年も冬鳥がこの地を訪れてくれたこと、こうして彼らを迎える自然が残されていることを、嬉しくかみしめます。

 耳を澄ませば、チン、チンとかぼそいカネタタキの声や、次第に深みを増していくエンマコオロギの歌。田畑がなくなってしまったところでは、こうした鳴く虫が少ないといわれています。人の営みと共に奏でられてきた虫たちの歌は、心にやさしく染み込んでくるようです。

イネを干す画像  テンツクテンツク…辺りに響く、祭りばやしの音。昔から、ある村の鎮守さまの秋祭りでは、お神輿の上の鳳凰の口に、辺りの谷戸の田んぼで一番よくできた稲穂がくわえられてきました。豊かな実りへの感謝を表す慣わしです。近年、休耕田になっていたところの中には、近隣の市民の皆さんによって開墾され、田んぼが復元されたところもあります。そこでできた稲穂が奉納されるようになり、地域の方々も、お御輿の鳳凰さまも嬉しそう。

 私たちが自然の恵みに支えられて生きていること、その命の意味を改めて見直す、実りの秋です。

 

冬〜冬鳥たちの憩う場に

マンリョウの画像  ひっそりと静まり返った、冬枯れの谷戸。カサコソと落ち葉を踏みしめて歩けば、凛とした空気が身を包みます。森では、ダルマの木と呼ばれるアオキや、マンリョウの赤い実がつややかに光ります。夏には活発に泳いでいたホトケドジョウも、今は水底の泥に潜り、じっとしています。散り敷いた落ち葉のふとんの下で、冬眠状態にあるのでしょう。2月に入ると、餌も底を尽きるのか、タイワンリスが一斉に樹皮をかじり、木肌がむき出しになる木も見られます。

 葉の落ちた木々のこずえでは、小鳥の姿がよく見えるようになります。特に冬は、いろいろな種類の小鳥が群れて「混群」となり、木の実や冬芽をさかんについばむ様子が見られます。

コゲラの画像  シジュウカラやメジロに混じり、ギー、と鳴くのは、コゲラという小さなキツツキ。コンコンと枯れ木をつつき、虫などを探します。白いマシュマロのような体に淡い桃色の目元をしたかわいらしい小鳥は、エナガです。ジュリリ、と鳴いては長い尾を振り、枝から枝へクルクルと渡っていきます。 やぶのそばを歩けば、チッ、と短く鈴を振るように鳴くオリーブ色のアオジの姿。夏には高らかにさえずえっていたホオジロも、チチッと抑えた声で地鳴きをしては、オギの穂をついばみます。チャッ、チャッと「ささ鳴き」をするのは、ササやぶに巣をつくるウグイスです。

 大勢の方々が力を合わせて草刈りをしてくださった野原は、広々と気持ちよく見通せるようになりました。ただ、冬鳥のアオジの群れが、今年は少ないようです。草刈りをするとき、ところどころに野鳥や獣の隠れ場所となるササや草やぶを残すと、警戒心の強い生き物も安心して利用できる、と、野鳥を観察する皆さんに教えていただきました。草の実を食べる野鳥は多く、広町にある広いオギ原は、大切な餌場になっているそうです。ときには生き物の視点から森を見てみると、人と生き物たち、どちらにとっても「すてきな場所」を守り育てるヒントが見えてくる気がします。


※この文章は、広町近隣の住宅地にすむ皆さんの会の会報
「連合会ニュース」に、2005年度に連載した原稿を元に作成しました。


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